研究内容

情報工学の継続的な発展にむけて

情報通信社会の爆発的な進展とともに、短時間内に処理すべき情報量は指数関数的に増加しています。一方、地球環境やエネルギーの制約から、情報処理に供するエネルギーは飛躍的に低減することが強く求められています。これまでは半導体工学の大きな進展により、情報機器におけるハードウェアは高性能化が進められてきました。しかしながら、ムーアの法則のような微細加工技術に依存した継続的な高性能化は困難になっています。 本研究室では、物理現象を理解して、その新しいデバイス機能を探究します。情報工学の発展に向けてはソフトウェアとハードウェアが両輪となって技術進展することが必要です。例えば、複雑な情報処理や機械学習等では専用のハードウェアを利用することで飛躍的な低消費電力化が期待されます。本研究室では最先端の実験機器を利用してハードウェアについて研究を行っています。

スピントロニクス

スピントロニクスは、1988年のFert博士とGrunberg博士の巨大磁気抵抗効果の発見を契機に大きく発展した研究分野です。この功績によりノーベル物理学賞(2007年)を受賞しています。巨大磁気抵抗効果の発見により、高感度な磁気⇔電気変換が可能になりハードディスクドライブの記録密度は飛躍的に向上しました。現在は、更に大きな変換効率をもつトンネル磁気抵抗効果が利用されています。磁気記録といえばハードディスクドライブがよく知られていますが、最近では磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)も大きな注目を集めています。MRAMは、CMOS技術との整合性、無限の書き換え耐久性、高い耐環境性という特長をもった不揮発性メモリです。

スピン流

スピン流とは電荷の流れを伴わない角運動量のみの流れを指し、これまでにスピントロニクス素子応用が進められてきたスピン偏極電流とは質的に異なるものです。例えば、電流に付随したジュール損失やRC遅延がなく、メモリの熱擾乱に対する耐性や動作速度の向上が期待されます。角運動量は、伝導電子、マグノン、フォノン、フォトン等を媒体として様々な物質中を伝搬させることが可能です。その生成方法に関しても、非局所スピン注入スピンホール効果、スピンゼーベック効果、ラシュバ効果等の多様化が進んでいます。今後、スピン流研究は、それら多様な物質群と機能性を活かして様々な電子デバイス応用へと進展することが期待されます。

スピン機能を用いたBeyond CMOSや人工知能デバイスの創製に向けて

電荷は、電場中を電流として伝搬します。スピンは、単磁極として存在できないために磁場中を回転しながら伝搬します。つまり角運動量の流れとなり、この流れに情報をうまく組み込めば情報伝送や処理が可能になると期待されます。例えば、角運動量の運び手としてスピン波を利用した場合、波の振幅あるいは位相に情報を組み込むことが可能です。しかしながら、頻繁な動作を行う演算素子や配線応用を考える場合、角運動量の生成手法の効率化や情報伝送速度の向上等の解決すべき課題はたくさん残っています。しかし、情報通信社会の持続的な進展を支えるには情報処理・記録を行う電子デバイスの飛躍的な省電力化は必須であり、将来的に大きな可能性が示されているスピントロニクス技術はその有力な候補です。わたしたちは、これまでに培った磁性体の微細加工技術や高速磁気および電気的特性評価技術を駆使して、新しい情報工学を支えるための基盤技術の創出を目指します。

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